”美しい時代を創る人達”に吉田のインタビュー記事が掲載されました。

長年アメリカと日本を行き来しながらビジネスの一線で活躍、現在、ZEN(禅)トレプレナーとして新たな挑戦のステージに上り、世界の発展、日本の発展のために活動されている吉田有さんにお話をうかがいました。

吉田有(よしだ たもつ)さんのプロフィール

出身地 神奈川県中郡大磯町

活動地域 日本、アメリカ

経歴 1976年、成蹊大学経済学部卒業。アラスカパルプ株式会社入社後、アラスカランバーアンドパルプ社(米国アラスカ州シトカ市)勤務、1985年帰国後、株式会社アルタモード入社、2000年代表取締役に就任、2005年ビジネスコーチ株式会社の設立に参画し、同社取締役に就任。長年、禅に取り組む。2014年、アメリカ・カリフォルニア州の本格的な禅林寺院建設「天平山禅堂プロジェクト」に出会い、強く共鳴。完成に向けて精力的にサポート活動に取り組んでいる。

座右の銘 独坐大雄峰(どくざだいゆうほう)

Q.吉田さんの夢やビジョンを教えていただけますか?

吉田有さん(以下、吉田 敬称略):西洋から東洋へパラダイムの流れの変化を感じている昨今、ビジネスパーソンの方たちが東洋的な禅の考えをビジネスに取り入れることによって、経済的安定だけではなく、人間的な成長を目指し、日々の仕事の中でより充実感を感じられる、そんなお手伝いができればと思っています。
ビジネスの場では成果を上げることの優先度が高く、人間的な成長を目指すことに思考が向かいにくいかもしれません。しかし、自分自身が本当に目指すことや理想の状態に向って、今のやっている仕事が繋がる感覚を持つことが出来れば、より充実した時間を過ごすことができると思います。私も長年ビジネスをしてきましたからその難しさもわかります。だから、それをうまく「つなげる」とか「融和する」とかというような機能に自分自身がなれたらいいなと思うのです。

Q.つなげるためには何が必要だとお考えですか?

吉田:私はコーチとしてコーチングを行いますが、相手にアウトプットしてもらうことによって、自分自身の中でつながる「気づき」を得てもらいたいと思っています。自分自身の目標やビジョンなどを明確にし、それをイメージしながら、目の前の仕事へ取組む。目標やビジョンと今の「仕事を繋げる」「一体感をもつ」感覚が持てると良いと思います。
例えば、元ダイリーガーのイチロー選手は現役時代、バットを持った腕をぐるっと回して遠くライトスタンドを意識してから、目の前に来るボールを打ちました。どんなバッターも打つという動作に集中しますが、打つ前に目指す方向をイメージするプロセスがあるのとないのでは違うと思います。それを体験してもらいたいと思うのです。今のビジネスパーソンはどちらかというと、打つスキルを磨くためのトレーニングが多いと思います。それもとても大事なことです。しかしそれだけではなく、一旦打つ方向をイメージしてから打つという、そのサイクル、それがとても大事な気がします。私は田舎に住んでいるので夜には星がよく見えます。毎晩、帰路星を見て広大無辺な宇宙を眺め、自分の目指していることをイメージしています。そして、その後足元を見て、今日一日のことを簡単に振り返り、未来のイメージと今ここを繋げています。この僅かな時間が自分には大事な時間であり、またとても心地よい時間でもあります。今日頑張ったこの一日は、この僅かな心地よい時間のためにあったのではないかとも思えます。
般若心経というお経に「色即是空、空即是色」という一節があります。色(しき)とは形あるもので、それは実は空(くう)である。空であるけれども目の前に現実にはあるという、難しい教えです。我々はこだわりや我欲があるのでなかなか空の視点になれません。しかし、それらを手放し視座を高め、空の視点で観ると、見える景色が違って見えます。この状態で取り組むと何事もパフォーマンスが上がると思います。私は、「我執を手放し空の視点で観る」というキーワードを大切にしています。しかし、当然のことながら、手放すまでには、やるべきことは必死にやっていなければなりません。何もしなくて「棚ぼた」はありません。やることはやって日々自分のスキルを磨かないといけない。やってやって最後に手放すと、理想の状態が来るというその感覚を、ビジネスパーソンにも体験していただきたいと思います。そういう「つなげる」が必要だと思っています。

記者:武術と似てますね。力が入っていると基本である受け身もできないから、力を自由に操れずそもそも戦えない。

吉田:そうそう、おっしゃる通り。現代のビジネスパーソンは、力を入れることに専念してしまっていて、足りないと更に力を入れてしまっている。ある合気道の先生に聞いたのですが、合気道の達人のポーズというのは力まずに「ふわっとした状態」だそうです。何があっても柳のように自分の中でコントロールできるような。ただし、握りこぶしを思いきり固くした後で、それを緩めるその状態だそうですね。やはりやるべきことはやっておき、その後、手を緩めるというのです。その感覚は、ビジネスにおいても勉強においてもそうだと思います。一所懸命やらないといけないのですが、最後は手放す感覚で取り組む方がうまくいくのではないかと思います。スポーツの達人の話には、そういうことがよくでてきますね。
天地自然の理(ことわり)という言葉があります。大自然の法則のことかもしれません。日本には日本国憲法という法律があり、そのもとで我々は暮らしています。さらに視点を高め、宇宙はどうかと考えた時、規則正しい天体の運行など、宇宙の法則があるかもしれません。またそれはものごとの原理原則かもしれません。変にスピリチュアルにとらえる必要はありませんが、そのような流れを感じてそれに乗るともっと物事がうまくいくと思うのです。そのようなことに気づくことが、これから時代必要だと感じています。

Q.そんな「つながり」のプロである吉田さんは、ビジョンを達成するために具体的にどんな目標や計画を立てていますか?

吉田:海と山に恵まれた大磯育ちなので、まず「自然」がキーワードとしてあります。そして大自然のある米国アラスカで仕事をしていたこともあり、アメリカと日本との関係も私の中のテーマの一つです。
具体的にビジョンを達成する一つの方法としては、海外での活動を知らせることで、日本人の心に火をつけるというものです。
シリコンバレーでマインドフルネスが流行っているとか、スティーブ・ジョブスが禅をやっていたとか、そういった情報を聞いた日本人が、自分もやってみようと始めたという話をよく耳にします。海外から発信すると日本人にも良い情報として伝わるのではと思います。
現在、5年前にご縁を頂いた北アメリカ国際布教総監の秋葉玄吾和尚が、カリフォルニアに東京ドーム9.5個分の敷地にアメリカ初の本格的な修行寺となる禅林寺院を、宮大工さんを呼び総檜で木組みスタイルの日本の建築様式で建設する「天平山禅堂プロジェクト」を進めています。ここは、禅マスターを養成する施設で、一般の人にも開放してもらえる予定です。私はあるご縁からこれを知り、秋葉和尚がとても苦労しながらもこのプロジェクトに取り組んでいらっしゃるのに強く共鳴しました。カルフォルニア州は、州としても大きく、GDPも高く世界最先端企業集団のシリコンバレーもあるので、世界の中でも新しい文化を発信できる影響力のあるエリアとも言えます。
まだまだ完成までのハードルは高いのですが、この日本の禅のトータルトレーニングセンターは、日本建築などはもちろん、世界に向けて日本の文化や良さを知ってもらえる拠点になるのではと思うのです。
また、日本人がカルフォル二アでの活動を知って興味を持ったり、刺激を受けて意識を変えたり、これから資金集めのための何らかの行動を起こしてくれたらと思っています。それを通じて日本とアメリカの人々の交流が起きればと思っているのですが、それが具体的な計画と言えます。だから、この寺をぜひ完成させたいので、少しでもサポートできればと考えています。

記者:日本人を変化させたいと思っていらっしゃるのと同時に、世界に影響を与えるのは東洋、中でも日本であると考えてらっしゃるんですね。

Q.これからの時代において、日本の禅が重要であり、日本が鍵である理由をもう少し教えていただけませんか?

吉田:日本人のDNAの中には、日本人としての良さが刻まれていると思うのです。それに気づくことで、日本の良さを世界にも発信できるのではないかと思うのです。
現在は大きなパラダイム転換の中にあり、世界の人口が増え、食糧、エネルギーや環境のバランスを見ても地球規模で限界にきているように思います。また文明は進化したけれど、果たして幸せだと感じている人はどれほどいるのかと疑問に思います。
あまりにも忙しかったり、メンタルが壊れたり、個人主義に走り、悲惨な事件も多い現状の中、今までのような成長スタイルではなく、持続可能な考え方で物事をみていくことが必要な時期に来ているように強く感じます。
その解決策の一つに、ひょっとすると日本の古き伝統の中にあるではと考えているんです。
農耕民族であった日本人は、豊作であればお天道様に感謝し、嵐がきて凶作になれば反省をし、「人事を尽くして天命を待つ」という精神で、一生懸命にやることをやり、どんな自然災害が起きても受け入れてきました。
また日本には、色々なものの中に八百万(やおよろず)の神が宿っているという考えがあり、人や物を大切にする精神があります。この精神は、人と物が一体化しているもので、欧米のように分けて分析をしていくような世界にはない、日本独自の考え方があります。
長年禅を追究するなかで、仏教的な思想を学んだこともあり「苦」を受け容れることができると安寧の状態になる、「受け入れがたい人生・世の中を受け入れると、人生・世の中とうまく付き合うことが出来る」と気づきました。これができないとストレスになったりするわけです。
何かを得るよりも、受け入れて調和して安定している、そういう生き方や考え方が、ポピュリズムで自国の利益ばかりを追求してギスギスしている現代には、とても大事なのではないかと思うのです。このような調和した考え方やものを大切にすることができる日本が、これからの時代の鍵になると思っています。

Q.日本の良さに気づき始めたのは、いつごろからですか?

吉田:今から15年くらい前になります。1985年にアラスカから日本に戻ってアパレル企業に転職し、20年間経営に参画してきました。バブル崩壊後諸般の事情でその会社を閉じることになりました。次の人生をどうするかと考え、仲間と一緒にコーチを生業にしていこうと新しい会社をつくり現在に至るわけですが、そのあたりですね。当時僕はちょうど50歳で、人生100年時代のちょうど真ん中でした。
アメリカ・サクラメントで30年来の親友、トニー・エバンス氏に「今後どうしたらいいか」と相談していたら、彼が「禅トレプレナー」という言葉を教えてくれました。アメリカのロン・ルービンとスチュアート・ゴールドという2人のアントレプレナー(起業家)が、ビジネスだけではなく禅的な東洋の心も学ぶといいと、禅とアントレプレナーを結び付け「禅トレプレナー」を発信し始めたと。ビジネスと東洋の心をつなげるというのは、当時はまだなかなか理解されるような時代ではなかったので、僕の中で温めていましたが、徐々に世の中が変化してくると、さらに気持ちが募りました。ビジネスコーチの会社も10年経ちとてもいい形で軌道に乗ってきたので、僕は一旦卒業させてもらい、こちらに専念したいと動き始めました。その矢先、先程お話した秋葉玄吾和尚との出会いがあり、やるべきことを決心したわけです。

記者:吉田さんのすべてのきっかけは人との出会いですね。つながり。2元論ではない、つながった1があるからこそですね。

吉田:そう、ご縁。つながるからこそ、つなげられるんですね。つながった経験があるから、人にもつながりを提供できるのだと思います。
「正」という字は1に止まると書きます。1に止まると1つになるから円になります。ある意味ゼロをつくるわけです。分かれていたものがつながり1つになるということは、ゼロ、つまり空になるから無限大なわけですね。空の視点になって物事と見ると、あっちとこっちの両方を見たうえでつながるので「今」に集中できる。このようなことを、ビジネスにつなげてパフォーマンスを上げられればいいなと思っているんです。
僕の坐禅経験は20年くらいでまだまだ修行中ですが、自然との一体感、何があっても受け入れる、ブレた心を短時間で戻す、相手を思いやる気持ちなど、そういった感覚が徐々に磨かれ、鮮明になってきたように感じます。

Q.最後に、読者の皆さんにメッセージを

吉田:若い頃アラスカに住んでいた時に、車で山を登りその頂きまでよく行っていました。人がまったくいない大自然の中にいると、自然との一体感を感じるような不思議な心地よさ、なんとも言えない至福感を感じることがあり、その感覚だけが今でも残っています。
独坐大雄峰(どくざだいゆうほう)という禅の言葉がありますが、まさしくそんな心境でした。私はこの言葉を自分の座右の銘としています。
今でも毎日帰り道で、夜空を見上げ、星を見ながら家に帰るまでの間に反省をします。満天の星が見えることで、イメージが広がり、そして足元を見て今日1日どうだったかなと思い、それらを結び続けています。
「禅」と言う字は、「示」す編に「単」と書きます。禅とは、単純に示すこと。余分なものをそぎ落すことで、シンプルな本質が見えてきます。本質が見えると元気になり、エネルギーも出て、「今、ここ」に集中できます。日常で物事の本質を見ることを是非してみていただけたらと思います。

記者:素晴らしいお話をありがとうこざいました!

【編集後記】

今回インタビューをさせていただいた、清水、石田、服部です。
お顔を見るだけで優しい気持ちになり、お話をするとワクワクしてくる、そんな素晴らしいお人柄の吉田さんのお話をお聞きすることができ、とても素敵な時間を過ごすことができました。「つながることでつなげられる」「シンプルになる」私たちも実践したいと思います。
世界のため、日本のための「天平山禅堂プロジェクト」も応援しています!